太宰が首領になって1ヶ月程経った。仕事は順調に進んでいる。太宰の要領の良さは健在で、本人のやる気さえあれば特に滞ることもなく仕事がきちんと流れている。本人のやる気があればの話ではあるが。そのどこかに捨ててきたやる気を取り戻すことが俺の仕事でもある。太宰の場合仕事は人並み以上に出来るので、程良く自由にさせることがやる気を持続させるコツだ。その自由時間に自殺をしにふらっと執務室を抜け出すことも多々ある。その時は俺が探しに行っている。
気に食わない部分があったものの、太宰からプレゼントをもらったので俺も太宰にプレゼントを贈ることにした。マフィアでは加入の徴に、身に着けるモノを贈る慣例がある。太宰は新人ではないが丁度いいと思った。先週、宝飾店にオーダーしてあったのを引き取ってきた。出来映えは上々だ。今夜、太宰が家に帰って来たら渡そう。結局あれから太宰はずっと俺の家に居る。俺もこの生活に慣れてしまったので、彼奴が出て行くと云わない限りは住まわせてやろうと思う。空き部屋もあるし広さも申し分ないはずだ。
俺の方が帰宅する時間が早かったので晩ご飯を作って待っていると、鍵を開錠する音が聞こえてきた。聞き慣れた足音がして、ダイニングの扉が開いた。
「ただいま~中也」
「今日もお疲れさん、太宰」
「何だかこのやり取りにも慣れちゃったね。ついこの間まで『中也と逢う=セックスをする』だったのになぁ」
「俺も同感。ところで太宰、手前に渡すモノがある」
俺は準備してあった袋の中から、プレゼントが入った小箱を取り出した。それを太宰に手渡した。
「プレゼント貰ったからな、そのお返しだ」
「君からプレゼント、ねぇ。この大きさだと指輪かな?」
「開けてみろよ。云っとくが返品は不可だからな」
太宰は箱をじっと見つめるとリボンを解き、包装紙をビリビリはがして蓋を開けた。指輪をひと目見た太宰はこう云った。
「うわ最悪。君さぁ、自殺志願者に対して何やってくれるの」
「俺は、ただ首領が長生きしますようにと願っただけだぜ? 折角だし嵌めてやるよ」
「仕方ないなぁ。中也が汗水垂らして頑張って働いて買ったんだもの。私は優しいから、君の働きに免じて嵌めてあげる」
俺は太宰から指輪が入った小箱を受け取り、箱から指輪を取り出した。恭しく跪き、太宰の左手を取って薬指に嵌めた。指輪は細長くて綺麗な指にスッと入った。サイズは見立て通りぴったりだった。
「これで、女避けにもなるだろ」
「君ってばほんと非道いよねぇ」
「だって『お返し』だからな。手前の隣に居れるのは、俺だけだから」
太宰の左手薬指に違和感なく嵌まっている、亀甲文様が入った指輪がキラリと輝いた。