太宰が俺の家に居候し始めて9ヶ月目。先月は太宰と来年の盆にマフィアの墓参りをする約束をした。正確に云うと、太宰が俺の墓参りを手伝う約束だ。まさか太宰に、手伝う気があるとは思っていなかった。だから、俺は純粋に吃驚した。彼奴には任務を遂行するために、何人もの人々を死に追いやってきた過去がある。余程のことがない限り、いちいち人の死なんて気にしないしできなかっただろう。しかし今更であっても、遅くはないと思う。まぁ、ただ俺を手伝いたかったみたいなので、本当に人の死を悼むわけではないのだろうが、太宰が手伝うと云ってくれて俺は嬉しかった。
手持ち花火は楽しめた。打ち上げ花火ほど壮大ではなかったものの、手元で輝く小さな火花はうつくしかった。印象深かったのは線香花火だ。花火の中でも一番地味なのだろうが、火玉から散る火花は、今の一瞬を精一杯謳歌しているように見えた。火玉がポトリと落ちてしまうことに、何とも云えない儚さを感じて、何となく、太宰みたいだと思った。死を望み、何度も自殺を試みて、そしてずっと失敗し続けている。彼奴の火玉は、今にも落ちてしまいそうだ。悪運が強いだけかもしれないが、それでも、彼奴なりにどうにかこうにかして生きていることに違いはない。線香花火をした時にこんなことを思ってしまったから、俺は火玉を落とさないように、つい必死になってしまった。彼奴が死んだら死んだで俺は生きていくのだろうが、寂しくなるに違いない。所属する組織が違っても、相棒ということに変わりはないのだから。
「太宰、時間だ。そろそろ起きろ」
今日は、太宰と遊園地に出掛ける日だった。姐さんから西瓜のお礼にと、遊園地のペアチケットをもらった。姐さんからは「大切な人と行くのじゃぞ」と云われたが、もともとあの西瓜は太宰が買ってきたものだし、休日にわざわざ部下を呼び出してプライベートに付き合わせるわけにもいかなかった。上司とふたりきりで遊園地というのも楽しくないだろう。よって、必然的に太宰が相手になってしまったのだ。
「もう時間……?」
「そうだ。起きれるか?」
今朝は30分程早めに目覚まし時計をセットし、俺も低血圧でなかなか起きれない太宰に付き合って、布団の中でゴロゴロしていた。
「いつもみたいにキスしてほしいな」
やっぱり、バレていたのか。俺が朝、太宰より先に起きた日は、額に口付けてからキッチンに向かっていたのだ。駄々をこね始めると面倒なので、その前に素直に従っておいた方が良い。でないと、時間通りに家を出られなくなる。俺は布団からのそのそ出ると、太宰に覆いかぶさり額に唇を落とした。顔を離すと太宰は嬉しそうに微笑んでいて、俺はなんだか照れくさくなってしまった。
気がつけば、太宰とキスするのも当たり前になっていたのだ。出会った頃からすると、到底あり得ないことが起きている。自分自身に拒否や嫌悪という気持ちは一切なく、太宰とのそういうスキンシップは自然に増えてきていた。今だってほら、体を起こしてきた太宰の顔が迫って、俺はそれを拒むことができない。目をつむって、太宰の唇が触れるのを大人しく待っているのだ。触れ合う唇に、幸せを感じてしまう。だから俺は、この感情をどうすれば良いか分からなくなっていた。太宰のことは嫌いだけれど、側に居て安心する上に、口付けは心地よい。一緒に過ごすのも、案外悪くない。居ないと心配で少し寂しくなる。最早相棒というより恋人に近いのではないかと思う時もある。しかし、根本的な所が相容れなくて、どうしても嫌いな気持ちだってあるのだ。恋と云うには、少々不純物が混じりすぎていると思う。
口付けした後、太宰は決まって俺を抱きしめてくるから、俺は暫くの間太宰のぬくもりを味わっていた。大事にされているな、と思う。
「朝ごはん、食べようか」
俺が太宰に付き合ってゴロゴロしている時の朝食は、基本的にシリアルだ。朝の30分というのはとても貴重で、太宰と同じ時間に起きるということは、朝食を作る時間がなくなることを意味する。だから、すぐに用意できるシリアルなのだ。 俺たちは着替えを持って寝室から出ると、シャワーを浴びる。最初こそ気を遣って交互に浴びていたものの、明らかに効率が悪かったので結局一緒に浴びている。体と顔と髪を洗い、タオルで体をふく。太宰が包帯を巻いている間に、俺は服を着てドライヤーで髪を乾かし、先に朝食の準備をする。電気ポットに水を入れてスイッチを押し、ドライフルーツ入りのシリアルを皿に入れる。オレンジを手早く切り、昨夜準備していたドライマンゴー入りのヨーグルトを器に盛り付けた。まぁ、これだけ揃えば十分だろう。配膳していると太宰がやってきた。
「中也、何飲む?」
丁度、湯が沸いたタイミングだった。最初、太宰は見ているだけだったのに、最近はタイミングを見計らって、配膳してくれたり飲み物を作ってくれたりするようになった。
「ダージリンで」
「了解」
ダージリンのティーバックを棚から出す太宰。ティーバッグを2つ出していたから、太宰もダージリンを飲むのだろう。本当は、蒸らす時間やお湯の温度まで気にすればもっと美味しい紅茶を淹れられるのだが、今日は時間がないから仕方ない。太宰が淹れてくれた紅茶も充分に美味しいし、またの機会にしよう。
「「いただきます」」
ふたり揃って挨拶をしたら、シリアルに豆乳をかけた。牛乳でなくても案外美味しい。豆乳の方が日持ちして扱いやすいので、俺は豆乳を買う方が多い。タンパク質もとれるし。
「ヨーグルト、やっぱり美味しいね」
ヨーグルトにジャムを混ぜるのに飽きてきたのだ。ネットでアレンジレシピを探したところ、これが簡単そうだったので作ってみた。細切れにしたドライマンゴーをヨーグルトの中に入れ、一晩置いておく。それだけだ。まだ2回程しか作っていないが、太宰に好評だったので他のドライフルーツでも試してみたいと思っている。
「ふやけたマンゴーがいいよな。砂糖入れなくても程よい甘みがあるし」
「甘さが丁度いいんだよね。砂糖入りのヨーグルトはちょっと甘すぎる。たまに食べる分にはいいけど」
最近太宰は、作った料理が美味しい時にすぐ伝えてくれるようになった。今までも態度や空になった皿から察していたものの、直接云われるとやはり嬉しい。
身支度を整えてから、俺たちは車で遊園地に向かった。
* * *
「遊園地、久しぶりだな」
「考えてみれば、遊園地で遊ぶの初めてじゃない?」
駐車場に車を止めて、入場券を提示し早速園内に入った。休日ということもあり、色んな人が来ているようだ。
「え、一度、爆発物処理に来たじゃねぇか」
「あんなの遊びじゃないよ! 結局何もなかったし。森さんに『周りの人にバレないようにね』とか云われて面倒なだけだったよ。さっさと封鎖すれば良かったのにさ」
マフィアに居る以上、所謂「普通の人生」を送るのは難しい。勉強はある程度教えてもらったが、学校には行っていない。そんな俺たちが、今日は普通に遊園地で遊べるのか。姐さんには感謝しなければ。今度会ったらお礼を云おう。
「そんなこと、今更だろ。観覧車には乗ったぜ」
「あぁ、確かに。今日も最後に乗るかい?」
「そうだな。夜景が綺麗だったし最後に乗るか」
「じゃあ、それで決まりね」
その後、太宰と話して乗る乗り物をざっくり決めた。お互い遊園地はビギナーなので、今日は定番の乗り物に乗ろうということになった。
「中也、これ乗ってよ」
バイキングに向かう途中、太宰が指差したのは、四足歩行のパンダの上に乗れる乗り物だった。
「ンなもん乗るか!」
「姐さんに頼まれてるんだよ、『可愛い中也の写真』を」
姐さん、もしかしてチケットを渡したのはそれが目的だったのか……?
「ほら、バイクに乗る要領でさ」
「全然違ぇだろ」
姐さんの頼みであれば、断ることはできない。俺は仕方なくパンダに跨った。恥ずかしさでいっぱいだ。太宰が百円玉を入れて、パンダを動かしてくる。携帯端末のカメラをこちらに向けて、シャッターを切る太宰。結局料金分しっかり乗っていた。
「可愛い中也、送っておくね」
太宰は早速姐さんに送るようだ。ちらりと太宰の端末の画面を見ると、写真と一緒に動画も送られていた。どうやら、動画と写真を同時に撮っていたらしい。
「おい、これ動画じゃねぇか!」
「その方が中也の可愛さが伝わるかと思って。いいじゃない、姐さんだし」
姐さんに喜んでもらえるなら良いが、こんなもので喜べるのだろうか。まぁいいか。
「用は済んだしバイキング行こうぜ」
「はーい」
バイキングは中々楽しめた。一番高い場所に行く時の、一瞬の浮遊感が不思議だった。いつもは異能を使って浮くことができるから。重力を操ることが当たり前ではないと、改めて気付かされた気がした。
その後はコーヒーカップに乗り、スカイサイクルで昼間の景色と青空を堪能した。俺は浮こうと思えば浮けるけれど、太宰と一緒に空の旅も悪くなかった。のんびりペダルを漕ぎながら、遊園地内のレストランで何を食べるか話して、スカイサイクルの後は昼食を食べた。メニューはカレーだ。この遊園地は食事にも力を入れているらしく、予想以上に美味かった。「中也が作ったカレーを食べたくなった」と太宰が云ったので、近いうちにカレーを作ろうと思う。
遊園地に来たからには、絶叫系も乗っておきたい。俺たちはジェットコースターに乗ることにした。ただレールに沿って走るだけではなく、座席自体が前後に回転するタイプだ。異能でスピードを出して走るのには慣れているから、予測できなさそうな動きをする乗り物に乗ってみたかった。どんなものかと想像しながら歩き、乗り場に着いたら列ができていた。どうやら、この遊園地で人気の乗り物らしい。大人しく列に並び、自分たちの番を待つ。
「どんな感じなんだろうな」
「乗ったら何も考えられなくなりそうだよね」
「太宰、怖いのか?」
「怖いというか、まぁある意味、天国に近付けるんじゃないかとは思ってる。中也は大丈夫そうだよね」
「乗ったことないし、分かんねぇや」
「ほぉ、珍しく弱気だね?」
「だってこれ、普通のジェットコースターじゃねぇだろ。動きを想像してたらさ、よく分からなくなっちまった」
どういう感覚になるのか、怖く感じるのか、色々分からなくなったが、俺は少しワクワクしていた。
「いざとなったら異能を使えばいいんだよ。君なら制御できる」
「それじゃあ意味ねぇだろ。手前も居るし。どうせ使えねぇよ」
「それもそうか。……あ、乗れるね」
俺たちの順番が来たらしい。コースターに乗り込んだ。従業員が安全ベルトをしっかり締め、安全バーも下げる。手すりを手で握ると、コースターはゆっくりと動き出した。
ここから先、正直俺は記憶が殆どない。太宰が云っていた通り、何も考えられなかったのだ。「キャー」と悲鳴をあげる余裕もなかった。ぐるんぐるんと視界が回り、体も回転し、高速でコースターが走った。回転方向が変わる時もあり、自分がどこかに行ってしまいそうだった。気付けばコースターはスタート地点に戻ってきていた。他の客もヨロヨロしながら、この場を去っていった。
「休憩……しようか」
どうやら太宰もふらついているらしい。斯くいう俺も、方向感覚が戻りきっていない。
「あそこのベンチに座ろうぜ」
お互い支え合いながら、ゆっくりベンチに歩を進める。そして、どっしりと腰を下ろした。
「死ねるかと思ったよ」
「……確かに」
それだけあのジェットコースターはすごかった。
「中也は三半規管強いと思うんだけど、何でへばってるのさ? ほら、壁面を車で走ってた時もあったじゃない」
「多分な、自分で制御できないからだ」
「成程、そういうことか」
普段俺は、自分の意志で異能を使っている。だから天井を歩くことができるし、何かの映画みたいに、トンネルの壁面を車で走ることだってできる。やろうと思えば、トンネルの中を螺旋を描くように走ることもできるのだ。ただし、それは自分の意志でしていることであって、今回のように、人工的に作られたモノとはいえ不規則な動きまでは予想ができない。自分の意志で動いているわけではないので、体も心も身構えられなかった。
「重力遣いがこのザマだ」
「仕方ないんじゃない? 特に今回は初めてなんだし」
「なんか悔しい。トレーニングでもするべきか……?」
「君、まさかこれに乗ってトレーニングするとは云わないだろうね」
「おぉ、それでいいかも」
「君は馬鹿なの? はぁ、何か飲み物でも買ってくるよ」
太宰は呆れた様子でそう云うと、立ち上がって売店に行こうとした。俺は反射的に、太宰の手首を掴んでいた。
「なぁに? 欲しいものでもあるの?」
何故手首を掴んだのか考えてから、俺は口を開いた。
「もう少し、ここに居ようぜ。おやつはふたりで食べに行こう」
「中也が云うならそうしよう。私と離れたくなかったんだね?」
「ばっ馬鹿野郎、そんなわけ……」
最後までは云えなかった。折角の1日だ。できるだけ太宰の側に居たかった。それに、一人取り残されることが少しだけ心細くて寂しかった。
「うふふ、可愛い中也だ」
太宰は携帯端末を構えるとシャッターを切った。そして、再び俺の隣に座った。
「今日は平熱だよな?」
「勿論。暫くこうしていようね。ジェットコースターで本当は思わず異能使っちゃったんでしょ。私が居たから何事もなかったけど」
太宰がキュッと俺の手を握ると、安心感が心の中に広がった。完敗だ。どうやら太宰には分かっていたらしい。俺はジェットコースターに乗っている時、本能的に異能を発動していたのだ。あまりに初めての動きをする乗り物だったから、何が起きているか分からず、身を守ろうとしたのだろう。
「大丈夫だよ。一般のお客さんは何も知らないし、怪我もしていない。君は何もしていないからね」
「あぁ。……サンキュ」
この力を使って人殺しをすることもある。それは間違いない。しかし矢張り、悪事をしたわけでもなく、裏社会に関係ない一般人には手を掛けたくない。だから今回、太宰が一緒に居て良かった。
気持ちが落ち着くまで、暫く俺たちはじっとベンチに座っていた。
おやつにコーヒーとソフトクリームを食べ、今度は普通のジェットコースターに乗った。こちらの方は動きが単純で、純粋に楽しめた。風を切る疾走感を好きになり、太宰を巻き込んで3回連続で乗った。太宰はどうやら絶叫系が得意でないらしい。3回連続でジェットコースターに乗ってヘロヘロになってしまったが、その後休憩がてらお化け屋敷にも入った。そうして過ごすうちに、気付けば夜になっていた。
「最後は観覧車だな!」
今日の遊園地はこれで終わり。予定通り、最後は観覧車に乗る。ゴンドラに乗り込むと、太宰は俺の向かいではなく隣に座ってきた。
「側に居たくて」
「あぁ、俺も」
お互いの手が自然に近付き、触れた。そのまま指を絡めて、恋人繋ぎをする。なんだか幸せだ。
「俺たちは恋人、なのか……?」
相棒なのか恋人なのか。ここ最近疑問に思っていたことを俺は漸く口にした。
「私たちは私たち、だよ。別に、世間一般の型に当てはめなくてもいいと思うんだけどなぁ。あぁでも、中也を『私の恋人です』って紹介するのは悪くないかも。中也はこの関係に、名前をつけたいの?」
「名前、か。どうしても気に食わなくて、受け容れられない部分がある。それは手前も同じだろ? だからな、恋人だなんて甘っちょろいのは少し違うと思ってるんだ」
「うん」
「それなら、まだ『相棒』の方がしっくりきてるんだぜ。恋人みたいなことはするけど」
「じゃあ『相棒』でいいんじゃない? 相棒同士、キスしちゃだめなんてこともないだろう」
「確かにな」
所属する組織は異なるが、生きていく上で俺たちは相棒なんだな、きっと。1月にこの生活を始めた時から、太宰と一緒にマフィアで過ごした時とは違う、新たな「相棒」としての関係が始まっていたのだ。
「前から変わってない所もあるよ。これは絶対に譲れないんだ」
俺の考えを読んだみたいに太宰は云った。
「それはね、相手が中也じゃないと駄目だってこと。恋人にしろ、相棒にしろ」
「当然だろ、相棒」
俺じゃないと駄目なんて云われて、嬉しくないはずがない。だから俺は少しだけ勇気を出して、自分から太宰に口付けた。俺としては大盤振る舞いだ。
顔を離すと観覧車は丁度てっぺんで、綺麗な夜景が眼下に広がっていた。
「綺麗だな」
その時、太宰がすかさず携帯端末を取り出してシャッターを切った。
「今日イチで可愛い中也だった。夜景所じゃないよ」
「姐さんにその写真送るのか?」
キスした直後の写真だ。いくら送り先が姐さんでも恥ずかしすぎる。
「まさか。こんな可愛い中也は送らないよ。独り占めしたいもの」
もう一回その顔見せてと太宰が云って、今度は太宰に口付けられた。観覧車は終盤。地上に近づくにつれ、ここがゴンドラ内という現実を思い出して顔がカッと火照ってきた。2回もキスしちまった……。
「今度は夜景をじっくり見る。あのジェットコースターにリベンジして、普通のジェットコースターにも乗るんだ。スカイサイクルもまた乗りてぇし……いいよな?」
「え、またあのジェットコースター乗るの?」
「ぜってぇ乗る」
「じゃあ、中也もまたあのパンダに乗って、観覧車でキスしてよね」
「む……。取引ってわけか」
「そうさ。恋人なんて甘っちょろい関係じゃないんだからね」
太宰と一緒でなければ意味がないんだ。楽しさが半減してしまう。だから、俺が出す答えは一つ。
「わかった。あのパンダに乗るし、キスも……してやるよ」
「了解。じゃあ、また来ようね」
ゴンドラが地上に着いて、従業員がドアを開けてくれた。忘れ物がないか確認して、俺たちは外に出た。そして、駐車場に向かう。自販機で飲み物を買って車に乗り込んだ。後はもう、帰るだけだ。太宰が運転を申し出たが却下した。彼奴の運転は、あのジェットコースターより恐ろしい。もしや、太宰が運転する車に乗って鍛えるべきなのか……? いや、それこそいくら命があっても足りないのでやめておこう。クラブマンのエンジンを掛けて、車を発進させた。
「姐さん、俺のあんな写真で喜んでたのか?」
「うん。楽しそうな君の写真を見て、喜んでたよ。最近仕事が忙しかったでしょ? だから、息抜きしてほしかったんじゃないかな」
「そうか。それなら良かった。なぁ太宰」
「なんだい?」
「今度は……その、ふたりで写真撮ろうぜ」
俺は普段殆ど写真を撮らないが、太宰との思い出をより鮮明に覚えておけるなら、写真を撮っておきたいと思った。
「うん、いいよ」
胸の中にしまった今日の思い出を振り返りながら、車をふたりの家に向かって走らせた。