ほの暗いです。首絞めてるので注意。

包帯で隠した痕

2018.7.29

 ――――「ねぇ、私を殺してみて?」

 ある日、太宰はこう云った。何故かと問うと、こう答えが返ってきた。
「勿論、君への嫌がらせだよ」
「……手前が喜ぶようなことはしねェ」
「君ばかりが、私に命を握られているのは不公平だと思わないかい?」
 そんなこと、考えたことがなかった。確かに汚濁は、中也の命を削っていく。絶大な力と引き換えに、身体への負担が大きい。負担が大きいどころか自身では制御出来ない。それを唯一止められるのが、太宰だ。また、任務においても、作戦を考えるのは太宰の仕事だ。太宰さえその気になれば、中也をいつでも殺すことが出来るだろう。成る程、と中也は思った。
「フェアじゃないから、殺してくれって云うのか? 有り難いことだな」
 皮肉まじりに云ってやった。
「そうだよ。だって、今のままでは明らかに不公平だろう? だから、私を殺してもいいと云っているんだ。どうだい、素敵な提案だろう?」
「断る」
「何故?」
「嫌がらせ、だよ」
「じゃあ、折衷案といこう」
「折衷案?」
「君が汚濁を使う毎に、私の首を絞める。勿論加減をして、だ。これなら私は死ねないし、君もスッキリするだろう」
「俺が加減を間違えれば手前は死ねる。そういうことか」
「その通り。いつ、本気で殺してくれても構わないよ」
 太宰はどうだい、と云わんばかりに視線を寄越した。
「それなら、いいぜ」
 あの太宰の生死を、他でもない自分が握れるのもいいかと思ったのだ。
「契約成立、だね」
 太宰はニィと笑顔を浮かべた。

 ――――中也は、横たわる太宰に跨がり頸に手を掛けた。
 あれから何度汚濁を使っただろう。その度に太宰の頸を絞めた。最近では、どの位の力加減でどの位太宰が苦しむのか、分かってきた所だ。
 少しずつ力を強くする。ヒュウ、と気道が段々絞まっていくのが分かる。紛れもなく、今、俺は太宰の命を握っているのだ。暫く絞め続けて、死なない程度の所で両手を離した。太宰が咳き込む。
「……今日は、いつもより、弱かったんじゃない?」
「そうか?」
「今日も君は、私を殺してくれなかった」
「文句あンならとっとと自殺しろ」
「何度もやろうとしてるじゃない。それでも死なせて貰えない」
 はぁ、と太宰は溜息を吐いた。
「でもね、君になら殺されてもいい気がしてるんだ」
「また、狂ったことを」
「逆に、君も私以外の者に殺されないで欲しい。触れられたくないんだ」
「何でまた、そんなことを?」
「だって中也は、私のものでしょう?」
 
 包帯の下の絞め跡を見せつけながら、太宰はニィと笑うのだった。